この場所の中に、少しだけ毛色の違う部屋があります。
zattaという名前の付いた白い部屋です。
服が並んでいます。
何の部屋なのかと聞かれると、今でもあまり上手く説明できません。
始まりは、ずいぶん前に出会ったある景色にあります。
そこには服がありました。
ただ、今思い返しても惹かれていたのが服だったのかはよく分かりません。
白い壁だったのかもしれません。 空気だったのかもしれません。 余白だったのかもしれません。 あるいは、その全部だったのかもしれません。
覚えているのは、その場所へ向かう時間です。 扉を開ける前の少し落ち着かない感覚です。 中へ入った瞬間の景色です。
そこにあるというだけで、全部が少し特別に見えていました。
今思えば不思議な話です。
何かを買いに行っていたわけではありません。 何かを探しに行っていたわけでもありません。 ただ、その場所へ行きたかったのだと思います。
そこに置かれているものが本当に特別だったのか。 自分が勝手にそう見ていただけなのか。 今となっては確かめようもありません。
むしろ、後者だった可能性の方が高い気もします。
けれど、その頃の自分には本当にそう見えていました。
気が付くと、その場所を入口にして色々なものを見るようになりました。 それまで通り過ぎていたもの。 気にも留めなかったもの。 そういうものの輪郭が少しずつ増えていった気がします。
今なら違う見方をすると思います。 それはたぶん間違いありません。 だから見える景色も変わっています。
ただ、その答えを確かめたいとは思いません。 今の感覚で触れてしまうと、あの頃の景色まで少し変わってしまいそうだからです。
記憶は勝手に形を変えます。 色褪せることもあります。 逆に美しくなりすぎることもあります。 都合よく書き換えられているだけなのかもしれません。
それでも、そうであってほしくない気持ちがあります。
あの景色は確かにあったのだと。 あの時に見えていたものを、なかったことにはしたくないのだと。 そう思っていたいのかもしれません。
ただ、時々思い出します。 全部が少しだけ輝いて見えていた頃のことを。
何も知らなかったからなのか。 何も持っていなかったからなのか。 もう思い出せません。
ただ、その頃の景色には今でも少し憧れています。
zattaは、その延長線上にあります。
真似事と言われたら、その通りなのかもしれません。 ただ、服も違います。 空間も違います。 気付けば別の景色になっていました。
良し悪しは、今でも判断がつきません。 それでも、どこかであの頃の輪郭を辿っている気はしています。
自分の中に残っていたものを集めていたら、こうなりました。
以前、その場所を知っている人が来てくれたことがあります。 気付かれるとは思っていませんでした。 少し恥ずかしかったのを覚えています。 でも、少し嬉しくもありました。
それでも、何かが残っていたのかもしれません。 あるいは、自分でも忘れかけていた輪郭のようなものが見えていたのかもしれません。
それは少し不思議な感覚でした。
自己満足なのかもしれません。 ただ、自分の中だけにしまっておくことでは満足できませんでした。
あの頃に見えていた景色のことを、 時々誰かに話したくなります。 誰かと共感したいだけなのかもしれません。
zattaは、そういう部屋です。